04

そんな教室での出会いから数日、授業も開始され少し経った某日の朝。
通学路の青信号に右左を確認し、横断歩道を駆けていく。
道路を挟んだ向かいには、端末を見つめながら立っている悠乃がいた。
立っているだけで纏うオーラさえ本当に女の子らしく、こうしてスカートを履きながら脚を大きく踏み出す満月とは明らかに何もかもが違う。

「悠乃っ、おはよ。ごめん待った?」
「あら、満月。ううん、さっき来たところ」

信号を渡り切ったところで、そんな彼女の名前を叫んで挨拶する。
家の方向は完全に一緒とまではいかないものの、それならといつも帰りに別れるこの信号で待ち合わせをしてあの日から一緒に登校している。
液晶から顔を上げた悠乃は、満月を見るなり相変わらずでにこりと微笑んだ。
満月はこうして待ち合わせ時間ギリギリに来ることが多いのだが、それに対して悠乃が怒ることはない。
今日は五分ぐらい早く家を出たのだが、やはり悠乃の方が先だった。

「いつもこの時間に来てるの?」
「いいえ、今日はちょっと他校の友達と途中まで来てたから。いつもはもう少し遅いから安心して」
「この近くの子なの?」

満月は近場優先の直感、さらに推薦で来たのであまりこの辺の高校に詳しいわけではない。
満月が首を傾げると、悠乃にしては珍しく少し黙ってから、歩きだして答えてくれる。
しかし悠乃がそうして挙げた名前は、幸か不幸か流石の満月でも一応知っている学校名だった。

「ほら、私達の近くに黎花ってあるじゃない。あそこの子」
「あぁ。セーラー服の?」
「えぇ」
「へぇー…」

《黎花高校》とは、少し距離はあるものの満月たちが通う《結波高校》と実質隣同士に当たる、黒いセーラーと学ランが印象的な少し悪評もある学校である。
結波の生徒が黒髪やそれぞれの地毛の髪色、最低限でも染めて茶髪というなら、黎花はほとんど兎に角明るく、煌びやかだ。
耳や首で輝く大きなアクセサリーも印象的である。
古い灰色の校舎は冬に見ると、それこそ寂しい色合いが強調されて重ねられた長い月日を痛感する。
場所も評判もなかなかなので、隣に通っていれば噂くらい嫌でも耳に入るであろう。
しかし悠乃の友達がそんなところに通っているというのは意外だった。
その子も金色だったり明るい茶色の髪をして、大きなアクセサリーをぶら下げているのだろうか。
頷いて少し挟んだ沈黙をどうとったのか、悠乃は空色の瞳で、不思議そうにこちらを見ている。
流石に口角は釣り上がっってなかった。

「どしたの?」
「…。ううん、別に」

笑顔でない悠乃にきちんとまっすぐ見つめられたのは、恐らくそれが初めてだった。
普段は叶わない瞳の奥までじっと見通せる気がする。そして、見透かされる気もする。
それでも恐怖や驚きではなく、ただその双眸に惹かれてしまうのだから変だとは思う。
暫く互いに何とも言えないまま、自然と足を止めて固まっていたところで、先にいつものように微笑んだのは悠乃だった。

「今度その子に会ってみる?」
「え。いいの?」
「たぶん。満月なら大丈夫そうだから」

大丈夫とは一体どういう意味なのか――結局それは訊けないまま、ただ会ってみるかという問いに満月は反射的に頷いた。
悠乃と友達のそんな派手な子を、見てみたいという好奇心も決してなくはない。
満月の友人は隣町だったり遠いところの学校に行ってしまったので、忙しかったりして滅多に会うことはない。

「言っとくけど、金髪とかではないわよ」

色々と考えて勝手にわくわくしていると、ぼんやりと青く澄み渡る青い空を仰ぎながら悠乃が肩を竦めて笑っていた。



余計なものがありすぎる