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「神崎先輩って、彼女いるんスよね?」
「あぁ」
「何処で知り合ったんですか?やっぱナンパですか?」
「さぁ。お前には教えてやらないね。まだ早いだろ?」
「えぇ?でも煌哉には色々言ってますよね。ズルいですよ」

知的な眼鏡がよく似合うイケメンの、にやりとした意地悪い笑みと言葉に、廉は露骨に肩を落とした。
一方でその滑稽なくらいの大袈裟な行為に眼鏡のイケメン――神崎 晶は、嘲笑にも似た、けれどもそれとは少し違う、また性質の悪い微笑を浮かべる。
長く白い指先は優雅にテーブルの上の、店に入るや否や第一に注文したアイスコーヒーのグラスを掴み、左手は如何にも女子を左右に侍らせているかのようにソファの縁に添えられていた。
これでうちの高校の優等生且つ生徒会長なのだから驚きだ。
先程煌哉達がいた部屋もこの彼のものであり、家も豪邸ではないものの割と大きな方ではあると思う。
教師も親も誇る、自慢の天才。
しかしその模範的な生徒としての裏に隠してある裏の顔を、煌哉達は知っていた。
と言うより知らなければこうして学校をわざわざサボって、ファミレスに昼食を食べにきたりしないだろう。
煌哉の隣で必死に尋ねる廉と、向かい側でそれを適当にのらりくらりと交わす晶。
煌哉たち高二組の服装とはまた違う、すっかり落ち着いたモノトーンに身を包んだ晶は、無駄な会話を好まず、大抵ただ論理的にものを語る。

「っていうか久世、腹減ってないのか?遠慮するなよ」
「ホントに奢ってもらっていいんですか」
「ファミレスの値段なんか知れてるだろ。まぁお高いランチがお望みならそっちに連れて行ってやってもいいけどなぁ」
「あ、いや、俺あんま味とかわかんないんで大丈夫ですスミマセン」
「まぁお前の言葉で言わせると菓子ならず飯まで全部花みたいな味だしな。けど覚えてとけ、女はそういうのが好きだって。現にさっき俺の部屋にあった菓子は、お前の知りたがってるその“絶世の美人”に土産でもらった。あいつの為に置いてある」
「彼女さんに?」
「薔薇の味らしい。まぁ花だな」

そしてそのぶん馬鹿っぷりが露骨に溢れる廉のことを、小馬鹿にしつつ楽しんでいる。
そんな様子をぼんやりと目にしながら、煌哉も自らの髪と揃いの色をしたレモンスカッシュのグラスをゆっくりと傾けた。同時に氷がからん、と音を立てる。
奢ってもらう云々より兎に角腹が減ったのだと、傍のメニューを開けば、不意にそれまで話していた二人がこちらを振り返った。
たった今まで廉に向いていたレンズの向こうの切れ長の瞳が、今度はこちらを捉えてふと細まる。勿論、愉しそうになお笑みも深まった。

「ほら、昴月を見習え。何にする?」
「カレー頼んでいいですか」
「久世は?食うだろ?」
「はぁ」

最早渋々頷いた廉が、隣からちらりとメニューを覗く。

「んじゃ俺もカレーで」
「久世のは激辛で?」
「えっ」
「俺は甘いのがいいです」

更にからかいを重ねた晶の言葉に、一瞬困ったように顔を顰めた廉を無視し、そっと煌哉も一応主張しておく。
晶はそんな後輩二人を見て軽くはは、と笑うと、近くの若い女店員をやはり優雅な手つきで呼び止めた。



ロックンロールに殺される