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“将来への切符”を手にするまでに辿りつく大きな分岐点というものは、主に二つあると思う。

一つはやはり、大学受験。
これは後の就職に大きく影響を及ぼしてくる。
なりたいものがきちんと決まっているのならば、それを夢中で追求するに限る。
逆にどうしたらいいかわからないのならマイナーな道へ進んではいけないのだ。
この境目がとても難しい。
例えばそれは、とある誰かがその重さに耐えきれず泣きたくなってしまうくらい。

そして二つ目は、その前の高校受験。
ここで将来役に立てる脳を、専ら作成するといっても過言ではない。
しかも中学のように呑気にしていたらどんどん置いていかれて、最後に待っているのはただの消滅。
そんなことになってしまったら、その先の未来なんかお前にはないと八割言われているようなものだ。
しかもそれによって空いてしまった空白は、遅れて悔いてもなかなか取り戻すのが困難である。
例えばそれは、とある誰かが気付いた頃にはもう手の伸ばし方すら忘れてしまうくらい。

――思えば、自分はどうしてこんなところにいるのだろう。

世の中にはその域だけでも沢山の高校がある。
そんな中、そこで出逢った人間と仲良くなる。
下手したら付き合ったり、後の関係にも繋がったり。
果たしてそれは、何か意味があるのだろうか?
救い救われ、傷つけられ。
喧嘩をして怒りや憎しみを知り、敗北して嘆く者。

例えばここではある少女の、先ほど述べた分岐点の一つに注目してみる。


春。桜が舞う季節。
それなりに評判もいい高校に、彼女――寺鳥 満月は推薦で進学する。
真新しい制服と上靴で、初めてここの一員として歩く校舎。
すれ違うのは見知らぬ人ばかり。
誰に会話していいかもわからず、それでも好奇心が止まらない。

入学式の時だって、それは変わらなかった。
隣の子の存在、後ろにいる先輩、沢山の教師。
更には新入生代表の答辞を読み上げる、学年代表の姿にすら感動して。
特にそれに関しては、その生徒の容姿が珍しかったこともあって、成人した今でも鮮明に脳内に焼きついているのだ。

「キレイね」

しんとした空間に答辞が響く中、声を潜めて話しかけてきたのは前の席に座っていた女子だった。
女らしく甘い、それでも不快ではない声のトーン。
少しこちらに身体を傾けていて、どこまでも続く青空を連想させる色の瞳と目が合う。
最初こそ不意打ちの言葉に驚いたものの、悪戯っぽいその微笑につられ、こちらも少しだけ身体を前へと傾けて返した。
あっさりと、そしてどこか淡々と読みあげるその生徒の声が響く中、二人でこっそりと声を潜めて囁き合う。

「男子だよね?あれ」
「そうじゃない?綺麗だけど制服が違うもの」
「あんな子っているんだ。初めて見た」
「私もよ。少なくともそこら辺にはいないでしょうね」

――果たして、この出逢いにも意味はあるのか。


何気なしで高校に入った満月に話しかけてきた、こちらも何となくのノリで来てしまった女子。
そして受験に落ちた、謂わば滑り止めの高校へ機械的に答辞を口にする少年。
そんな彼を、少女たちとは違うクラスの席からぼんやりと見詰める、何かを求めてここへやってきた男子。

前に述べたがこれはほんの、一例の環境にすぎない。
満月と少女がこそこそと話している間に、入学式は終わってしまった。

これはそんな、ある一部の方々の過去のお話。



運命か宿命か